日本では各業界において、業務の効率化を実現するために古くからメインフレームなどの独自システムが構築されてきました。このようなシステムは独自OSで稼働していたり、仕様が標準化されていないソフトウェアが使用されていたりして、保守及び発展性に問題があります。DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進にとっても足かせとなるため、レガシーシステムからの脱却が必要です。
組織でレガシーシステムを使い続けることには、さまざまなリスクを生む可能性があります。
レガシーシステムは新しい技術やプログラムに対応できないといったケースが多くなります。すると、その場しのぎでの機能追加などを繰り返すことになりますが、そうすると大規模なシステム障害の発生リスクが高まってしまいます。
さらにブラックボックス化してしまったレガシーシステムは、障害が起きた後に迅速に対応することが難しく、その分復旧が遅れることから企業への損失が大きなものとなると予想されています。金銭的な被害はもちろん、企業の信用を失うリスクにもつながってしまうのです。
組織でシステムを使い続けるためにはシステムの修正やトラブルが発生した際に対応できる人材が必要ですが、長年使い続けているレガシーシステムは、古い技術で作られています。システムに使用されている古い技術やプログラミング言語を理解できる技術者は徐々に減少していくことになります。
レガシーシステムを使い続けるということは、対応できる技術者が少なくなるということです。いずれは人材不足に悩まされてしまいます。
古いシステムは徐々にパフォーマンスが落ちていきます。そのため、何か作業をおこなうにしても処理に時間がかかるということもあるでしょう。そうなると業務効率が落ち、組織全体のパフォーマンス低下にもつながります。
レガシーシステムはメーカーのサポート期間が終了しているケースも多くあります。このようなケースでさらにサポートを受けようとすると、別途保守契約を結ぶ必要があることから、保守のコストが大きくなってしまうことになります。
さらに、何かトラブルが発生して修理が必要、となった場合にも部品の取り寄せに時間・コストがかかってしまうといった点も考えられます。
2018年、経済産業省が発生した「DXレポート」に登場した「2025年の崖」とは、レガシーシステムから脱却できない場合、DXの実現が難しくなるばかりか、2025年には年間最大12兆円もの経済損失が発生してしまう、という問題です。
「レガシーシステム」とは、組織の中で長期的に使用される中で老朽化し、さらに長年機能追加・拡張などを繰り返しおこなうことによって複雑化・ブラックボックス化してしまったシステムを指しています。
DXが注目される前から、レガシーシステムからの脱却は大きな課題とされていましたが、この2025年の崖問題によって対応の緊急度が高まっています。
組織で使用する情報システムがレガシーになってしまうのは、システムの老朽化が原因の一つではありますが、人的な要因も大きいとされています。例えば、下記のようなものが原因とされています。
システムのサイロ化とは、各部門が独自にシステムを構築し互いに連携が取れない状況を指します。
サイロとは農産物や飼料を互いに混ざり合わないよう壁で仕切って保存する倉庫のことです。農産物や飼料の場合は混ざり合っては困りますが、システムの場合は部門間の連携を考えないとそれぞれがそれぞれの思惑でシステムを構築してしまい、結果的に連携が難しいレガシーシステムとなってしまいます。
長く運用を続けてきたシステムにはそれぞれの企業のノウハウが詰まっています。それによって運用が円滑におこなえるという利点がある一方、運用が属人化しがちです。
もしシステムを運用してきた人材が退職あるいは転職した場合、誰もそのシステムの全容がわからないという事態が発生し得ます。全容がわからないとDX化のための抜本的な改修がおこなえなくなり、レガシーシステムとなってしまうのです。
システム運用にはコストがかかるため、外部委託によってコスト削減を図っている企業が多くあります。
運用の一部のみを委託するだけなら良いのですが、委託に頼りすぎると社内から運用のノウハウが失われ、ブラックボックス化することになります。また、社内のITリテラシーが低下し、ますますDX化が進めづらくなるでしょう。
新たな業務や法規制などへの対応のため、システムには常に改修が必要です。長年運用を続けてきたシステムには改修が多く入っていますが、安易なアドオン追加やカスタマイズを繰り返すとシステムが肥大化しブラックボックス化してしまいます。
部門ごとに必要な改修を個別におこなうとサイロ化も同時に進み、誰も手をつけられないレガシーシステムとなるかもしれません。
サイロ化やブラックボックス化が進んだ場合、既存のシステムの改修では問題の抜本的な改善は困難です。既存システムの改修ではなく、DXの推進によるレガシーシステムからの脱却が必要となります。
レガシーシステムからの脱却方法には以下4つの方法が存在し、それぞれにメリット・デメリットが存在します。
モダナイゼーションとは近代化を意味し、既存のデータやプログラムのユーザーインタフェースをそのまま活かす形でシステムを新しく作り直すものです。
この場合、顧客や従業員は今までと変わらない使い方でシステムを利用できるため、移行の際に生じる混乱を最小化できます。ただ、互換性を保ったシステムの構築には大きなコストと長い時間が必要となるでしょう。
互換性を維持しつつレガシーシステムからの脱却のためのコストや時間を削減するには、マイグレーションによる脱却がおすすめです。これはシステムを新しく作り直すのではなく、既存のソフトウェアやデータを別の環境に移転するものです。新しい環境に備わった新しい機能を利用してDXの推進ができるかもしれません。
マイグレーションの場合、ソフトウェアやデータをそのままの形で移転するため、作り直しのコストが必要ありません。リスクを抑えられるのもメリットですが、古いシステムの問題をそのまま引きずることになる可能性があります。
インターネットが普及する前に構築されたシステムは社内にハードウェアを置いて自社で保守・運用するのが一般的でした。最近ではサーバーをクラウド化し、ハードウェアの保守・運用を自社でおこなわない形態が普及しています。
クラウドを活用すると自社でハードを保有する必要がないため、その分のコストや人的リソースをDX化などに投入可能です。
レガシーフリーとは過去のソフトウェアやハードウェアを捨て去り、新たに作り直すことを指します。
過去のしがらみを捨てられるため高性能かつより新しい仕様を取り入れたシステムを構築できるでしょう。また、互換性維持のためのコストが不要のため、費用も安く済みます。
リスクとしてはすでにブラックボックス化が進行したシステムの場合、必要な機能が新しいシステムに実装されず、混乱が生じるかもしれないということです。
レガシーシステムを使い続けることによってさまざまなリスクが考えられます。ですので、レガシーシステムからの脱却が求められています。そこで注目されているのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。
DXは、クラウドサービスやAI、ビッグデータなどのIT技術の導入によって、市場のニーズに合ったサービス提供をおこなったり、ビジネスモデルを構築して組織の競争力を確立するという概念です。企業にとって必要なデジタル技術を導入し、サービスや商品の開発につなげていくことが求められています。