そもそもDXとは「デジタルトランスフォーメーション」のことで、AIやIoTなどのデジタルを活用しながら業務フローの改善、ビジネスモデルの創出、レガシシステムからの脱却などを実現させる意味です。
政府は「医療DX令和ビジョン2030」という取り組みを掲げており、全国医療情報のプラットフォーム・電子カルテ情報の標準化・診療情報改定DXを骨格としています。新型コロナウィルスの流行時への対応からも分かるように医療業界では見える化が進んでおらず、医療機関同士の連携もなどの課題を抱えている状況です。医療DXが推進されることで、切れ目のない医療提供ができるようになるでしょう。また感染症などの危機的状況に陥ったときにも迅速な対応がしやすくなる効果も期待できます。
日本全体において少子高齢化が急速に進んでいる中、医療業界においても医療従事者不足は大きな課題となっています。とくに若年層が都市部に流出することで、地方の人手不足は著しい問題と言えるでしょう。さらにコロナ禍によって浮彫になった課題としては、システムの整備や医療機関の経営難なども挙げられます。
医療DXによってデジタル技術を導入することで、医療組織・医療業界・医療に対する考え方など、医療の根本的な変革を目指せるでしょう。だからこそ政府主導で「医療DX令和ビジョン2030」が掲げられ、医療現場の課題を少しでも解消できるよう取り組んでいるのです。
「医療DX令和ビジョン2030」とは医療現場にDXを推進することで、日本の医療業界の情報のあり方を根本的に改革する政策のことです。
2022年6月に経済財政運営の指針である「骨太の方針」に全国医療情報プラットフォームを取りいれ、医療分野を抜本的に改革することを示唆しています。さらに2022年9月には「厚生省推進チーム」が厚生労働省に設置され、10月には内閣官房が「医療DX推進本部」を設置するなど医療DXが本格的にスタート。今後の政策として医療DXを益々推進していくと言えるでしょう。
これまではレセプトの請求・保険加入確認などの業務は、社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険中央会がメインとなって対応にあたっています。今後はオンライン資格確認証システムのネットワークを拡充させることによってレセプト・特定健診・予防接種・電子処方箋・自治体健診・電子カルテなどの医療情報を共有し交換できる「全国医療情報プラットフォーム」を設置する予定です。
このシステムを導入する最大の目的は、医療機関や自治体で個別に管理されていた患者情報をネットワークを活用して共有することが挙げられます。これによって紙ベースの紹介状が不要となる、患者の病歴や検査歴などの確認がしやすい、電子署名の活用も可能などの利便性アップが期待できるでしょう。迅速に情報の共有ができることで、的確に病状や薬歴などを把握しやすくなり、早期の治療・重複検査や投薬の回避などにもつながります。患者自身も自分の状態を確認しやすくなるため、健康増進なども図れるでしょう。さらに情報を二次利用することでAI医療などの技術開発、新薬開発、医療機器の開発が促進されることも考えられます。
ただシステムを有効に活用するためには、高度なセキュリティ対策が重要です。さらにオンライン資格確認の運用を始めた施設は少なく、今後はオンライン資格確認等システムの導入の義務化や医療機関への導入に対する支援なども必要となってくるでしょう。
医療情報を交換する際の国際標準規格「HL7FHIR」を用いて、厚生労働省が標準コード・交換手続きを決定する制度のことです。その制度では「診療情報提供書」「退院時サマリー」「健診結果報告書」の3つと、傷病名・アレルギー・薬剤禁忌・検査・処方・感染症の6つの情報を対象としていますが、今後はさらなる情報拡大が推測されています。
また医療従事者が共有する情報とは別に、行政やゲノム医療、医療機器の開発、新薬の開発の分野での統計利用を目的とした健康医療需要データの共有もできるシステムの構築も検討されているようです。
ただ電子カルテ・HL7FHIRが導入されていない機関では連携自体が行えないため、まずは電子カルテ導入を促進しなければなりません。そのためには導入促進に向けた積極的なアプローチが重要になってくるでしょう。
これまでは診療報酬が改定されるたびに文書で正式発表された内容を、レセコンのメーカー側が改定内容に合わせて報酬計算プログラムをつくりなおすという作業が行われていました。この作業は複雑かつ膨大で、事業者にとって大きな負担となっている状況です。そこでエンジニアやベンダーの負担軽減のために「共通算定モジュール」の導入を行い、診療報酬が改定されたときもモジュールの更新を行うことで、スムーズに実施できるようになるでしょう。
さらに4月施行の診療報酬改定日を後ろ倒しにすることで、作業集中月の解消を図り、運営コスト削減や保険者負担の軽減にもつながると提唱しています。
2019年4月に働き方改革関連法が施行され、労働時間の上限などが規制されています。しかし医療業界では過重労働が定着していた現状もあり、働き方を改革するためには時間を要すると考えられ、5年間の猶予が与えられていました。しかし猶予期間が終わる2024年には多くの医療機関において人材不足や勤務環境の整備などの問題が生じる可能性があります。
日本全体で労働人口の減少をきたしている状況にあり、医療業界においても人材の確保が難しい状況に陥っています。どうしても医療従事者はハードな仕事と思われるケースも多く、医療業界離れも進んでいる現状です。さらに若者は都市部に流出してしまい、地方での医療従事者不足は深刻な問題となっているでしょう。どんなに高度な設備があったとしても、人材がいなければ医療機関としての役割を果たすことが出来ません。
電子カルテなど新たなシステムを導入せず、アナログな業務をそのまま行っている医療機関も多々あります。アナログであれば業務の効率化が悪くなり、ほかの業務に支障をきたす可能性も。また医療従事者自体に負担が大きくなり、離職率アップにつながるリスクも伴うでしょう。
新型コロナウィルスによって浮き彫りになった課題が海外生産への依存でしょう。マスクなどの医療備品が国内ではなく、海外に依存度が高まったことで感染拡大時に不足してしまうという状況に陥りました。平時であれば問題は大きくないかもしれませんが、万が一の時には国内生産を増やさなければ、様々な医療備品が不足してしまうでしょう。
医療や健康、介護などの分野において、各種のデジタル技術を活用するシステムがデジタルヘルス。具体定期には電子カルテ、オンライン診療、ウェアラブルの活用などを言いますが、海外の先進諸国に比べ、日本ではこれらのデジタルヘルスの導入が遅れていることが分かっています。
医療業界がデジタルヘルスの導入を拒んでいるというよりも、患者がデジタルヘルスに抵抗感があることが大きな要因のようです。
海外の先進諸国に比べ、日本はデジタル機器に対する信頼が全般的に低い傾向があります。逆に、海外の先進国に比べ、医師に対する信頼が全般的に高い傾向があります。
医療現場のデジタル化が遅れている一因には、これら日本人特有の意識もあるようです。
ICTを活用することで、オンライン診療が実現できるでしょう。都市部と地方の医療格差の解消にもつながり、地方在住者がわざわざ診察のために都市部の医療機関を受診する必要がなくなります。通院負担軽減だけでなく、院内感染のリスクも軽減され、さらに患者への物理的な対応が減ることで医療従事者の業務負担も軽減できるでしょう。
患者の中には複数の医療機関を受診し、大量の薬剤を処方されているケースもあります。医師は患者や家族からの情報に頼るしかない現状ですが、DXが推進されること医療情報のネットワークの構築がされるでしょう。他の医療機関の情報を共有し閲覧できるため、過去のカルテや処方状況、既往歴などの情報もチェックしやすくなり、質の高い医療の提供につながります。また検査を重複して行う必要もなくなるため、患者にとっても身体的負担軽減となるでしょう。
病気になってから治療を開始するのではなく、本来は運動・食事の管理などを指導することで病気を未然に防ぐことが重要です。健康寿命を延ばすためにも予防医療は欠かすことができないでしょう。スマホなどを活用することで自分自身の健康状態を気軽にチェックでき、より健康への意識向上につながります。またヘルスケアを行うことで、医療費の削減も図れるでしょう。
医療機関に受診すれば1日かかる…などマイナスのイメージを抱く方も多くいます。待ち時間が長くなれば精神的ストレスが増えるだけでなく、院内感染のリスクも高まってしまうでしょう。DXを推進することで予約システムの導入が進み、待ち時間を大幅に短縮できる効果が期待できます。また医療情報の共有によって重複検査も減るため、受診にかかる時間も短縮できるでしょう。
厚生労働省が発表している「電子カルテシステム等の普及状況の推移」によると、令和2年度の一般病院での電子カルテの普及率は57.2%ですが、一般診療所では49.9%にとどまっています。また一般病院でも400床以上であれば91.2%という高い普及率になっていますが、200床未満であれば48.8%です。この数値からみても、病床の規模が小さい医療機関ほど電子カルテの普及が進んでいない状況と言えるでしょう。
医療についての専門的知識を有している医師であっても、パソコンの操作は苦手という方も多く、ITツールを導入することにハードルが高くなっています。とくに規模の小さな医療機関だと、ITツールに詳しい人材を確保しにくい現状もあるようです。
電子カルテなどのITツールを導入するためには、投資のためのコストが必ず必要となります。しかし医療機関は必ずしも黒字経営ではなく、赤字経営で苦しんでいるケースもあり、ITツールの導入費用が不足していることも。またIT化を図ったことによる費用対効果も分かりにくいため、ほかの設備に予算は優先されてしまうこともあるでしょう。
医療機関の中にはITツールを既に導入しているケースもあり、新たなツールと連携ができないため導入が困難なケースもあります。また部門ごとで別々のツールを活用していた場合、システムの統一に部門の合意が得られないこともあるでしょう。
まずはIT化を図る目的を考えましょう。スタッフからのヒアリングなどで課題を洗い出し、改善したい項目に優先順位をつけていきます。優先順位に応じて課題は明確となり、どのようなITシステムを導入したら良いのかも分かりやすくなるでしょう。
課題・目的が明確になれば、それに適したITツールを比較・検討しましょう。コスト・操作性などをポイントに選び、オンプレミス型・クラウド型のタイプにするのか決定します。無料トライアルができるITツールもあるので、一度試してみるのも良いでしょう。
ITツールが決定できれば、実際に導入となります。ただ導入したら完了という訳ではなく、スタッフにシステムの使い方などを指導しなければなりません。全スタッフが使いこなせるようマニュアルなどを作成しておくことも大切です。
実際に使い始めたら定期的に導入の効果判定を行いましょう。もし問題があれば改善を行い、早めに対処してください。
医療情報の電子化が進む中、そのシステムを有効に運用するためには、情報の保存に関わるシステムの構築、医療機関におけるIT専門家の存在、IT投資コストの問題、ITセキュリティシステムの構築など、様々な課題をクリアしなければなりません。それらをワンストップで解決するシステムが模索されていました。
キャノンITソリューションでは、それらの課題を抱える医療機関を対象に、医療クラウドサービス「ARTERIA® モバイルシステム」の開発に着手。安全なクラウド利用の在り方を定めた国のガイドラインに準拠しながらシステムを運用できるよう、医療情報システムに精通した監査人などがチームを組み、医療セキュリティの視点から総合的な支援を提供しています。
国のガイドラインに正しく準拠したサービスをシステムに実装したことで、ガイドライン準拠のための工数が大幅に減少。医療情報の管理に関わるスタッフの省力化、人件費削減など、今後様々な変革に向かうことが期待されています。
Coloplast(コロプラスト)社は、主にストーマ(人工肛門)用の装具において知見の高いデンマークの企業。ストーマを利用している患者の負担を少しでも軽減させ、日々のメンテナンスや生活が少しでも楽になるアプリを模索していました。
医療従事者からの助言だけではなく、患者たち本人からの意見も踏まえ、患者満足度の向上を最大目標としたストーマケアアプリとカテーテルアプリを開発。細部に至るまでユーザーテストを実施しました。
ユーザーテストの結果を重視したことにより、約半数の治験者はアプリ活用によるルーチン管理の簡略化を実感。また、約8割の患者は治験に満足したと答えました。
東京都中野区にある「田中クリニック」は内科・呼吸器内科・アレルギー科の診療を行っている医療機関です。ニコチン依存症治療を行う場合、患者自身が毎日の服薬・禁煙日記の記録をしなければなりません。しかし次の来院日までに空白期間があるため、我慢できずに喫煙する患者も多くいることは課題となっていました。
そこでヘルステックのスタートアップ企業「CureApp」が提供しているニコチン依存症患者を対象とした治療用のアプリ「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー」を導入しました。ニコチン依存症患者に向けて、より禁煙につながる治療法を提案。
アプリには喫煙の欲求が高まったなど日々の禁煙に関する内容を記録する「禁煙日記機能」、一人一人に合った禁煙のテクニックを管理できる「実践管理機能」、喫煙の欲求が高まったときに対話形式で対処法が相談できる「チャット機能」などが搭載されています。医学的なサポートが一人一人に提供できることで、空白期間での喫煙を予防しやすくなっているでしょう。
COVID-19蔓延の初期のときから敷地内に発熱外来の専門ブースを設置するなど、地域に寄り添った医療を提供している藤本耳鼻咽喉科医院。コロナ発熱外来での自宅療養のフォローアップが難しい状況でした。
そこでMeDaCa PROを導入し、ビデオ通話機能を利用することに。非常に画面が見やすく、日常の診療にも取り入れることで患者の状況にあった診療につながると感じています。
医師が院内に不在であってもネット環境さえあれば、院外から患者のフォローができるようになりました。電話だけでは不十分だった体調確認フォローもしやすくなったと思います。また患者自身も自宅という慣れた環境のせいかリラックスして話せるようで、ビデオ通話の方が体調説明を詳しく話せている点も導入後の気づきです。