DXはデジタルトランスフォーメーションという言葉の略称であり、AIやIoTなどのIT技術を駆使して事業や経営に変革をもたらすことをいいます。森林・林業という業界においては地域産業と環境保全という大きな使命を実現するために、DX化の推進が求められています。
森林の適切な管理には森林計画制度の運用や森林整備の促進・保安林の管理などといったさまざまな業務を行う必要があり、各都道府県ではその基礎となる森林簿や森林基本図などといった情報をデジタル化して一元管理しています。これらのデータ管理は標準化とクラウド化が進められており、自治体間の連携や林業へのデータ提供の効率化などができるよう「森林クラウド」の導入が促進されています。
また、森林の資源量は林木の成長とともに常に変化しているため、林野庁では森林の動向変化を全国統一的な調査手法で把握しています。林野庁ではレーザ計測の実施を支援することに加え、森林クラウドの標準仕様書の見直しなども行っています。
林業では造林から収穫までに長期間を要し、厳しい自然条件下における人力作業が多いという特性があります。このことが生産性や安全性を低める一因となっており、「森林・林業基本計画」ではこの課題の抜本的な改善に向け地理空間情報やICTなどを駆使するスマート林業に取り組んでいます。具体的には全国12地域での技術実証を行っていることや「森林資源情報のデジタル化」を活用した生産管理への取り組みのほか、最新技術を取り入れたスマート機器の導入への支援も行っています。
放置林が発生する要因の一つとして、「森林の資産価値がよくわからない」というものがあります。森が有する機能をしっかりと認識・把握し、資産価値の見える化を実現することも課題の一つとなっています。
日本の70%程度は森林であるといわれており、そのうち半分は伐採適齢期を迎えています。しかし管理が行き届いておらず、適齢期に伐採されることなく放置林となってしまい、再造林も進まないという悪循環が発生しています。
我が国日本においては高度経済成長期に輸入木材の関税が無くなっており、今日に至るまで国産材の競争力が低下した状態となっています。足許では輸入材木の価格上昇による影響で国産材需要の上昇が見られますが、これらの国際的な環境変化への対応も求められます。
林業の担い手についても少子高齢化の影響が及んでおり、若者が都市部へ流出し林業人口は減少傾向にあります。親族間承継も少なくなっており、今後はM&Aへの積極性も求められることになるでしょう。
放置林の多くは私有地であり、中には相続登記がされていない所有者不明の土地も多くあります。地方の過疎化などさまざまな要因が考えられますが、今後は行政としても何らかの対応が必要になってくるでしょう。
林業にITを導入することでさまざまな要素の可視化を実現することができ、今までは人力で行っていた危険な作業を機械化することで事故発生リスクを回避することも期待できます。さらに人員不足により個人にかかる負担が大きくなると業務上の災害リスクも大きくなってしまいますが、DX化に取り組むことでこれらのリスクを抑制することも可能になるでしょう。
DX化を進めることのメリットは安全性を確保できるだけではなく、人手がかからなくなる分だけ人員コストを抑えることも可能になります。人員コストを削減できるとその分利益率がよくなりますから、林業経営としても経済的に安定することで事業継続がしやすくなるでしょう。
林業は「補助金を見直さなければ再生はあり得ない」ともいわれる業界であり、補助金で赤字が補填されることから林業関係者が経営努力をしないと言われています。スマート林業の導入によりこの思想・感覚を助長してしまう可能性があります。
DX化の一つの壁となるのが初期投資です。長い目で見た時には人員コストの削減や生産性の向上などのメリットを享受することで採算が取れるとしても、短期的に見ると投資負担に耐えられず導入ができないというケースも少なくありません。
林業は非常にニッチな業界であり、他の業界に比べるとDX化関連のシステムや機器が発展・発達していません。そのため機器間の互換性が乏しくなっており、スマート林業導入の障壁となっています。
林業にはさまざまな課題がありますが、事業者としてはDX化への取り組みに腰が重くなっています。しかしながらDX化を進めるとさまざまなメリットを享受することができますので、ぜひ専門コンサル会社に相談してみるとよいでしょう。
石川県ではこれまで森林調査や丸太調査などを人力で実施していましたが、DXの導入によって森林境界の確定や森林所有者の合意形成加速化などに取り組んでいます。また、生産者と需要者が連携した木材需給のマッチングや地域材利用の拡大なども目標として掲げられていました。
実証実験や検証としてドローンやIoTハーベスタを導入し、撮影データからの自動把握や伐採時に丸太の堆積を自動的に把握することなどができるようになりました。「森林の見える化」によって効率的で信頼性が高い施業提案を実現する体制の構築を目標としています。
6地区で実証したうち、4地区デ20%~30%の作業労務削減効果が確認されました。軽減率の低かった2地区については、スギ以外の樹種が多く混在したことに起因して画像上での確認や修正作業が発生した状況となっていますが、高齢で現地に行く事ができない所有者に対しても現状を分かりやすく示せるようになりました。
長野県ではこれまで大学や組合を中心とした産学官のグループにおいて、ICTを駆使した先進的な技術開発に取り組んできました。航空レーザ計測の実施などにより高精度地形データが県内全域で揃っている状況にあるものの、大多数の林業事業体ではICT技術の活用が低位であるという課題がありました。
航空機レーザで計測した地形データや詳細な森林情報をGISシステムに取り込むことにより、伐採した木材量をスマートフォンでペーパーレスに検収することができるようになりました。その後クラウドなどによって需給マッチングシステムに情報を共有することで、リアルタイムな状況把握を実現しています。
航空レーザやドローンを活用して詳細な測量を行うことで森林管理や調査労務の低減、GISシステムへのデータ取り込みにより高度な木材生産計画の策定ができるようになりました。また、スマート丼アプリによるペーパーレス検収で省力化が実現できたとともに、需給マッチングシステムの活用で運送コストの低減と機動的なマッチングが可能になっています。
愛知県では「あいちのICT林業活性化構想」を定めており、それに基づいた取り組みを行っています。ICTを活用して木材生産や森林整備などを効率化・省力化することに加え、県内における林業や木材産業の成長産業化を目指しています。
航空レーザ計測による資源情報や地形情報の把握に加え、路網設計支援ソフトを導入することで路網設計と施業提案への活用を行いました。また、生産工程管理システムや日報アプリの導入、生産現場のデータ化などのほか、木材需給マッチングシステムの構築やマーケットインによる木材の安定供給にも取り組んでいます。
森林調査を省力化することでコスト削減が実現できたとともに、現地調査なども省力化できたため林道などの設計業務にかかるコストも削減できました。また、施業提案業務のスピードも向上し、木材生産進捗管理の見える化・リアルタイム化で木材生産の効率化も実現しています。
山口県内で製材工場の設備拡大があったこと、新たなバイオマス発電所の稼働が始まることから確実な木材供給が喫緊の課題でした。これまでも一定程度DX化への取り組みは行われていたものの、さらなる森林施業の効率化、省力化を図りながら需要に応じた木材供給実現が求められていました。
地上レーザ計測の高精度な情報を用いる事で「立木在庫の見える化」を実施しました。また、施業提案手法の確立や路網計画作成支援システムにより施業集約も効率化しています。さらにタブレットなどの日報管理システムでデータ集計や分析を行い、管理業務も省力化しています。
スマート林業の導入効果は徐々に大きくなっており、生産現場の見える化による経営効率化や原木在庫の見える化による配送効率化などが順次実現しています。調査人の削減効果の他、高精度情報の実感も徐々に得られつつあります。