スマート漁業・スマート水産業とは、AIやIoT技術を活用することで漁業のさまざまな業務や技術をデジタル化し労働効率化・生産性向上などを目指す取り組みをいいます。いわゆる「職人」の勘や経験が必須とされてきた漁業において、後継者問題の解決などに貢献すると考えられています。
漁業・養殖業においては生産性向上への取り組みを行っています。漁業においては短期漁場予測を含めた衛星情報などによる漁海況情報を活用し、経験が少ない漁業者でも効率的に漁場に到達できるよう沿岸域でも普及・拡大に努めています。また、養生で操業している事業者と市場関係者が漁獲・市況といった情報を共有することで効率的な操業に繋げるなどの流通連携にも取り組んでいます。
養殖業においては生産量拡大に向け沿革自動給餌システムや自動網掃除ロボットなどといったスマート技術の導入や、産学官の知見者からなるプラットフォームの構築などを行っています。
生産者と加工・流通事業者が連携し、ICT技術などを活用することで水産バリューチェーン全体の生産性向上に取り組むモデル構築も行われており、2023年度までに優良モデルを10事例以上実現しています。漁獲情報や加工・流通情報の提供により消費者の安心につながる仕組みづくりと支援取り組みに対するフォローアップにより優良モデルの横展開にも努めています。また、農林水産省共通申請サービスを活用したオンライン届出の実施や電子化の取り組みに対する支援にも尽力されています。
世界的に漁業や養殖業の生産量推移が増加している中、食用魚介類の国内消費仕向量は2001年度頃までが850万トン程度の推移であったのに対し、2016年度には肉類の国内消費仕向量を下回るとともに2019年度には568万トンまで減少しています。さらに国内における一人当たりの消費量は2001年度の40.2kgがピークであり、2011年度に肉類の消費量を下回り2019年度には23.8kgまで減少している状況です。このように、国内における水産物需要の喚起が業界的にも課題として認識されています。
日本国内では少子高齢化の影響により、さまざまな業界で人手不足や後継者不足が叫ばれています。漁業においてもその傾向は例外なく、漁業の就業者数推移は年々減少傾向となっています。事情としては少子高齢化という外的要因の他にその労働環境の過酷さにもあると考えられており、一次産業特有のきつい・きたない・危険の3Kのイメージが強いことが挙げられます。さらに自然を相手にする産業であるということから天候などに漁獲量が左右され不安定であること、また海上・船上の環境が非常に過酷であることも就労者が減少している原因の一つであると考えられます。
出典:令和2年度 水産白書 全文│水産庁
出典:我が国水産業の現状と課題│内閣府
従来の漁業においては漁業従事者の経験や勘などという抽象的な感覚を基準とした非効率な操業を行うことが一般的でした。しかしAIやICT機器などの導入によりデータ分析・活用が行えるようになり、効率的な操業を行うことが可能になっています。
漁業では特に沿岸資源に関するデータが不足していますが、これらが手作業では無く自動的にデータ化されることで適切な資源評価ができるようになります。さらに手集計では時間がかかってしまい非効率となってしまいますが、スマート漁業によりスピーディーな集計を実現できると最終的には漁獲報告などの業務負担軽減にも繋がります。
漁業のイメージとしては過酷ながら低賃金という印象を抱かれがちですが、スマート漁業を導入すると省力化や効率化が図れるため一人あたりの賃金を向上させることも可能になります。人員不足の問題に対して追加リソースを模索するのではなく、DX化により人を増やさず操業を維持することができるようになります。
今までの漁業従事者は長年の勘や経験に頼った操業を行っていた事から、その技術承継も大きな課題となっていました。これらを人から人に伝えるには多くの時間が必要になりますが、ICT技術を駆使することができればこれらの問題も解決することができるようになります。
システム導入などの最大の障壁は初期投資の必要性です。より効果の高いシステムを導入するためにはまとまった初期投資が必要となってしまい、その導入コストの高さから踏み切れないという事業者も多くいらっしゃるでしょう。
スマート漁業の実現には機器やソフトウェアの活用が必要になりますが、用いるデータなどが標準化されていないという事情があります。国内外においてこれらが標準化されるとより一層導入は加速すると考えますが、現時点では漁業事業者の負担となっている状況です。
どれだけ便利なシステムがあったとしても、それを使いこなせる人材がいなければメリットは享受できません。漁業従事者はその道一本で生きて来た方が多く、スマート漁業にしっかりと対応することができないという点も今後改善が求められる課題の一つとなっています。
スマート漁業は今後導入が進んでいくと予想されていますが、現場で業務を行う漁業従事者のITリテラシー向上など越えなければいけない壁が多く存在します。円滑にDX化を進めていくためには、プロの専門家であるDXコンサルに相談することも重要な選択肢の一つになるでしょう。
漁業は自然を相手にする産業であることから、漁獲量の不安定さに対していかにリスクヘッジできるかが重要なポイントになります。漁業従事者の長年の経験と勘に頼るという不安定さが課題となっており、特に定置網漁では漁獲の予測が非常に難しいため「空振り」により燃料代がかさんでしまうという問題もありました。
漁獲量の予測などが漁業従事者個人に属するような属人性が高い状況では再現性や技術承継に多くの課題を残しますが、宮城県東松島市ではサケ定置網の漁獲量予測としてデータ活用による事前予測に取り組みました。水温などの取得データを活用しながら漁獲高の予測モデルを作成し運用しています。
市場と漁獲予測を直結させることで需要と共有をバランス化するシステムを開発・導入したことにより、作成した漁獲高予測は7割強という高い精度を誇っています。
どのようなビジネスにおいても事業継続のために儲けることが重要とされていますが、福井県小浜市では「養殖業の漁労支出は6割以上がえさのコスト」という課題がありました。コストを抑えれば利益が増えるというのは当然の話ではありますが、コスト削減や抑制を実現することが容易でないのが悩ましい点となっています。
魚も生き物ですから、毎回人が手で行う給餌が常に最適なものとは限りません。そこで小浜市ではIoTの活用により給餌量の最適化に取り組み、餌代の抑止に取り組みました。いけすの水温や漁師の給餌量をIoTセンサーとタブレット端末で記録・管理することによりデータ化に努めています。
福井県小浜市の名物であ る「鯖、復活」養殖効率化プロジェクトとして始まった取り組みですが、取得したデータの環境や給餌量の相関を分析し、給餌計画の最適化を行うPDCAサイクルの確立に成功しています。データ量は増えれば増えるほど精度が上がるというのが一般的ですので、今後更なる効率化が期待されます。
漁業のみならず産業においては生産物のロスが最も事業に対して大きなダメージを与えます。売上が立たなくなるだけではなく在庫を処分することになるため、プラスマイナスゼロではなくマイナスに振れてしまうからです。長崎県五島市で行っているマグロ養殖においては赤潮が魚の大量死を招く重大リスクであることから、そこに対するリスクケアが課題となっていました。
赤潮から魚たちを守るためには、まず何よりも赤潮を早期検知することが何よりも重要です。そのためドローンや画像解析を用いることで赤潮診断の迅速化に努めるとともに、スマートデバイス向けの周知システム開発に取り組みました。
ドローンでの開始採取や採取した海水をAI分析することによる有害赤潮リアルタイム分析の実現、AI分析結果を漁業者に周知できるリアルタイム通知環境を実現しました。これにより採水から赤潮発生検知までの所要時間を、従来の半日から15分程度まで圧縮することに成功しています。