建設業界には人手不足や生産性の低さなど、構造的な課題が存在しています。また、建設現場は常に危険と隣り合わせであり、どれだけ注意していても人間が関わる以上事故を0にするのは困難です。そのような建設業界の課題を解決する鍵として期待されているのがDX(デジタルトランスフォーメーション)です。国としても建設業界のDX推進を後押ししており、官民一体となって取り組む価値のあるものです。そんな建設業界のDXについて解説します。
建設DXとは、建設計画や建設作業、点検作業などのあらゆる工程においてデジタル技術やAIを活用することで、建設業界全体の変革を図る考え方のことです。作業効率が大幅に向上するだけではなく、建設現場における作業員のリスクも大幅に低減します。国土交通省などが主体となり、今や建設DXが急速に進行中です。
少子高齢化が進み、業界の人手不足が深刻化している近年、建設業や運送業などの若者離れが著しい業界においては、特にDXに向けた動きが急務とされています。
建設業界は長年にわたってさまざまな課題を抱えています。代表的な3つの課題を解説しましょう。
1つ目の課題は人手不足、そして継承者不足です。
国土交通省によると1997年時点で685万人いた建設業界への従事者が、2020年には492万人にまで落ち込んでいます。
さらに働き手の高齢化も進んでおり、2020年において建設業界で働く人の36%が55歳以上なのに対し、29歳以下は12%しかいません。全産業の平均はそれぞれ31.1%/16.6%なのに比べると高齢化がより進んでいるといえます。
これにより単に人手不足が発生しているだけでなく、これまで培って来た技術が継承されず失われるリスクも存在しているのです。
ただでさえ働き手が減っている建設業界に追い打ちをかけるのが、2024年に特例措置が終了する働き方改革関連法です。
この法律は時間外労働を1月あたり45時間に制限していますが、2019年の施行に対して2024年まで5年間の猶予期間が与えられていました。2024年になると時間外労働可能な時間が減り、これまで以上に人手不足になると予想されています。
また、時間外労働時間が減ると労働者の収入が減るため、より高い収入を求めて建設業への従事者がほかの業界に流出する事態も起こるかもしれません。
労働者1人あたりの生産性の低さも長年の課題の1つです。
建設ハンドブック2021によると、2019年において建設業界の生産性は1人あたり2872.9円/時間でした。これは全産業の平均(5788.7円/時間)の半分以下の生産性です。
現場ごとに状況が異なるために標準化が難しい、手作業が多く自動化できないといった建設業界特有の原因が根底にありますが、少子高齢化社会を考えると生産性が向上しない限り人手不足の解消は難しいでしょう。
そんな建設業界の課題を解決する鍵として期待されているのがDXです。建設業界にDXを導入することによって得られるメリットを解説します。
建設業界のDX化によって得られる第1のメリットが、業務効率化による生産性の向上です。
たとえば新しいデジタル技術を活用して建築物の3Dモデルを作成することにより、平面の図面よりも直感的でわかりやすい完成図を関係者全員が共有でき、思い違いや理解の相違を避けて手戻りを減らせるでしょう。
また、顧客情報や営業情報をデジタル化すれば受注までのコストを削減可能です。
DX化は人件費の削減にも寄与します。
現在は建設に必要な重機に操縦者が直接乗り込まなければならず、1人の操縦者が複数の離れた現場を掛け持ちするのが難しい状態です。
重機を遠隔操作可能にすれば、1日のうちに日本中のさまざまな現場を掛け持ちできるようになり、必要な人数が減ってコストカットが可能になります。さらにAIを活用して重機が自動的に作業できるようになればさらなるコストカットが可能です。
技術の継承にもDXが利用できます。
たとえばAIに熟練工の技を学習させれば、デジタルデータとしてあらゆる現場でその技が使えるようになるかもしれません。
AIでなくとも、熟練工のノウハウをデータ化し社内で共有するだけで技術の属人化を避け継承が容易になります。
AIやIoTの活用で危険な作業のリスク低減が可能です。
先述の遠隔操作を使えば人間が危険度の高い現場で従事する必要がなくなりますし、仮想現実(VR)による教育や拡張現実(AR)によるサポートも事故発生予防に寄与するでしょう。
建設業界のDX化への期待度は高く、国も積極的に支援をおこなっています。国による具体的な取り組みを4つご紹介します。
国土交通省は2021年に、インフラ分野でDX化を推進する専門部署である「インフラDX 総合推進室」を発足させました。
また、建設DXの実験をおこなうためのフィールドを用意したり、国土交通省が発注する工事や業務の3Dデータを一元管理・分析するためのDXデータセンターを整備したり、日本各地のDXに関する拠点間を超高速通信で接続したりと、国が率先してこの分野を引っ張っています。
これらの成果は民間が平等に利用でき、建設業界全体のDX化に寄与しそうです。
「i-Construction」は国土交通省が主導するプロジェクトです。
国や自治体、有識者、建設関連企業、そして建設分野以外の関連企業が共同でDX化に向けた活動をおこなっています。
参加者は技術開発・導入、3次元データ流通・利活用、国際標準化についてワーキンググループを作り、官民一体となって課題に取り組んでいます。
国土交通省は小規模をのぞくすべての公共事業にBIM/CIMを原則適用すると発表しました。
BIM/CIMとは計画・調査・設計において3Dモデルを利用した情報共有をおこない、生産管理の効率向上を目指すものです。
これにより公共事業を受注する事業者はBIM/CIMへの対応を余儀なくされ、業界への浸透が期待できます。
国土交通省は2022年に建設現場に監督職員が直接出向かず、Web通信を利用した「遠隔臨場」を直轄する土木工事で適用すると発表しました。
これにより現場への移動時間短縮や、立ち会いに伴う受注者の待ち時間短縮が期待されます。
建設業界のDX化にはさまざまな最新技術の活躍が期待されます。そのなかの代表的な7つの技術をご紹介しましょう。
BIM/CIMは先述の通り、建設する構造物を2次元の図面ではなく、3Dモデルとして立体的に示す技術です。
2次元の図面では表しきれない部分や、誤解が生じやすい設計を直感的に把握でき、意思疎通の迅速化や理解の相違や設計の不備による手戻りの減少が期待されます。
クラウドはインターネット上に用意されたサーバーなどのサービスであり、インターネットに接続されていればどこからでも利用できるのが特徴です。
本社と建設現場がリアルタイムで工事の状況を共有したり、指示を出したりと、やりとりの効率化が期待できます。
スマートフォンなどで日常生活でも利用される5Gですが、高速・大容量・低遅延という特長を活かして建設現場での活躍が期待されます。
たとえば重機の遠隔操作には高解像度映像の伝送や操作の低遅延での反映が不可欠であり、高層ビルの屋上など有線でのインターネットが難しい場面で必要不可欠な存在になるでしょう。
AIは膨大なデータを学習させることで人間よりも正確かつ高速な判断が可能です。
工事の進捗状況確認はもちろん、熟練工の技術継承にも役立ちます。建設機材の操作を学習させることで、熟練工自身も意識していなかったノウハウの発見・継承ができるかもしれません。
RTK測位とはGPSの位置測定精度を向上させる技術です。衛星からの電波を利用する点はGPSと同じですが、固定局と移動局という2つの受信機を利用することで位置情報の誤差をわずか数センチメートルに抑えられます。
重機の遠隔操作や自動操作には正確な位置情報が欠かせず、RTK測位を利用すればGPSよりもはるかに高い精度で運用可能になるでしょう。
ドローは無人航空機のことであり、有人のヘリコプターや飛行機に比べてはるかに低コスト・低リスクで運用できます。
建設分野では上空から現場を撮影することによる施工管理や測量、そして建設後の構造物の点検やメンテナンスへの応用が可能です。
ICT建機とは高度に情報化された建築機器のことであり、先述のRTK測位もそれを実現する技術の1つです。
掘削や切土、ブルドーザによる敷均しをオペレータなしにおこなえるようになるなど、効率化に寄与すると考えられています。
建設業界をリードする大手企業として、自社はもとより、業界全体が顧客や社会とデジタルでつながる仕組みを作ることを目指していた鹿島建設。主体的に課題を発見し、課題を解決し、便利・快適・安心・希望のある世界の実現を率先していくことが、自社の大きなテーマと考えていました。
2021年1月にデジタル推進室を新設し、中核事業の強化に向けた「建設DX」、新たな価値創出に向けた「事業DX」、経営基盤の整備とESG推進に向けた「業務DX」の3つを軸に、経営層や各部門、社外専門家などを巻き込む形で、室長が中心となって力強くDXを推進しています。
建設には、企画・開発、設計、施工、竣工後の維持管理・運営などの領域が必要で、これらのうち鹿島建設が期待されている工程が設計・施工領域。一方で顧客が求めるのは、ワンストップで面倒を見てもらえる仕組み、と室長は考えています。さまざまなハードとソフトを組み合わせながら、顧客にトータルで最適なソリューションを提供できるよう邁進中です。
従来、建設現場での作業は、人が体を使ってアナログで行うことが中心です。人がおこなう作業である以上、業務の効率化には限界があり、かつ現場では危険が伴います。少子高齢化による人手不足も深刻化するなか、建設現場におけるDXが急務と鹿島建設では考えました。
「鹿島スマート生産ビジョン」を掲げ、2024年までに「建設現場での作業の半分をロボットにし、管理の半分を遠隔でおこない、すべてのプロセスをデジタル化する」という目標を設定しました。2021年1月現在では、すでにドローンなどのデジタル技術を使った作業が実践されています。
鹿島建設が名古屋で建設した「名古屋伏見Kスクエア」においては、従来の方法で建設した場合に比べて作業員の数が約20%削減されました。人手不足と作業員の高齢化が進むなか、今後の建設業界の在り方を大きく変えるきっかけになるかもしれません。
清水建設ではペーパーレスによる業務効率化を目指していましたが、申請書によって異なるシステムを利用していたため運用の負荷が大きいのが問題でした。
パッケージ型ワークフローにより各種帳簿作成や申請業務を高効率化しました。
起案者の作業効率が向上したのはもちろん、決済が迅速化されて業務がよりスピーディーになりました。さらに紙に比べて保管・管理の負荷が軽減しさまざまな部分で業務が効率化されています。
工事の現場は支店から離れた場所にあることが多く、工事の安全性や品質チェックに多くの時間とコストがかかっていました。また、トラブル発生時に電話では正確に状況を伝えづらく、専門技術者が現場に到着するまでに時間がかかるのも課題でした。
タブレットやスマートグラスで支店と現場の映像共有を可能にしました。カメラやAR機能により双方向での映像と音声の伝送が可能になっています。
スマートグラスのカメラで状況を映像として伝え、指示をAR機能で確認しながら作業をすることで、迅速にトラブルを解決できるようになりました。また、録画機能によって安全点検の記録を残せるため、問題が発生しても後日見返せるようになり、管理がより正確におこなえるようになっています。