DXはデジタルトランスフォーメーションの略であり、AIやIoT技術、ビッグデータなどといったデジタル技術を駆使して事業・経営の変革を実現させることをいいます。農業分野は働き手の不足や高齢化が課題となっており、これらの課題解決に向けてDX化が求められています。
農林水産省では、農業や食関連産業の案傾斜が農業DXを進めるにあたっての羅針盤・見取り図として活用できるよう、「農業DX構想」を取りまとめて公開しています。変わりゆく時代の中、農業者の高齢化や労働力不足などといった課題の解決に向け、デジタル技術を活用することで効率のいい営農を実行することと、消費者ニーズをデータで捉えて消費者が価値をより実感できる形になるような変革実現を目的としています。2030年を展望しながら機動的な実行が進められています。
2023年3月16日に発行された「DX白書2023」では、農業におけるDX化の取り組み状況を解説しており、データを活用した農業を行っている農業経営体数は全体の23.3%に増加していると紹介されています。また、農業・林業で「DXを実施している」と回答した企業は45.4%となっていますが、サンプル数が22件と少数であること、ならびに全体の半数である50%に満ちていないことから、農業DX構想も道半ばという状況になっています。
出典:DX白書2023│IPA
農家が抱える課題の中でも最も大きいものに、労働力不足・後継者不足という問題があります。少子高齢化が進みゆく我が国において、働き手となる現役世代の母数がそもそも減っていること、核家族が増加し実家の農業を継がない、という選択肢が増えたことなどが要因であり、マンパワーに頼らないビジネスモデル化を検討しなければ今後農業における生産量は減少の一途を辿ることが想定されています。
さまざまな企業がグローバルに活躍するようになった昨今、国内外を問わず「安いものを仕入れる」ことが容易になってきています。これは農産物にもいえる傾向であり、東南アジアをはじめとした世界各国から安価で農産物を仕入れるケースが増加しており、国内農産物は輸入品との価格競争も強いられつつあります。
国際的な情勢もあり、円安の影響でさまざまなコスト高が経営を圧迫します。農業分野においてもこれは避けられない課題となっており、肥料などの高騰が農業経営を苦しめる状況が生まれています。
各種給付金や補助金を利用することで経営効率化やDX化などに取り組むことは可能ですが、これらも含めた行政関係の手続きは非常に煩雑で非効率です。オンライン申請などが増え効率化されつつはありますが、それに対応できる農業従事者が少ないという現状もあります。
DX化により作業などを省力化することができると、マンパワーに頼らない農業経営が実現できます。そうなると人材不足や高齢化によるさまざまな課題に対応することが可能であり、生産量の維持に取り組めるでしょう。
農業といえども経営であり、儲けることは事業継続上必要不可欠です。DX化に取り組むことで他の業界同様経営効率化に取り組むことができ、コスト削減などといった経済的なメリットを得ることができます。
農業にDXを取り入れることはSDGsに対応した農業を実現することも可能になります。将来的には地球規模での食糧危機も想定されているため、こういった農業DXは日本だけでなく世界的な課題解決にも貢献します。
農業においてもDX化を進めることは非常に重要ですが、対応リソースが不足しているのが現状でしょう。今後農業分野でDX化を進めていくにあたっては、外部専門家としてDXコンサル会社などに協力を仰ぐことも視野に入れるとよいでしょう。
農業は天候などに大きく影響を受けることから、出荷量などの情報を正確に把握して有利販売に繋げていかなければいけません。農業現場においてはこれらの情報を紙やFAX、電話などでやりとりしており、ヒューマンエラーによる情報の齟齬やスピード不足などが課題となっていました。
今まではアナログにやりとりしていた情報をスマホやPCを用いてやりとりできるシステム運用に変更することで、タイムリーな共有環境を構築しました。JAとのデータ連携により個人の生産情報だけでなく、JAからの出荷情報も卸売業者などの流通事業者に連絡することが可能となっています。
農業従事者と流通業者間のやりとりにLINEというツールを追加したことで農作業中でもスムーズに対応できるようになりました。また、これに関連して市況情報や販売情報もタイムリーに把握できるようになったため、次の生産計画の検討にも役立つようになりました。
以前は生産記録や農薬管理をエクセルで行っていたものの、記録をつけるためにはPCを使う必要があるためどうしても農作業が終わってから取り掛かるという状況がありました。そうなると実際の作業から時間が空いてしまい、細かな情報の記録漏れなどが起こってしまうという課題がありました。
スマートフォンアプリを導入することでさまざまな記録を入力することが可能であり、作業を行いながらその場で記録を付けることができます。その場・その時点で記録を付けることで記録漏れや内容を忘れるなどというリスクを回避することができ、精度の高い情報入力が可能になります。
作業記録をその場で入力でき、かつ必要なメモもその場で記入することができるため当初想定していた通りの効果が得られています。作業項目はあらかじめいくつか用意されており、それらを使う場合には細かな入力ではなくタップ一つで記録が完了します。また、一度入力したものも同様に項目として残るため、効率的な記録作業が可能になりました。
契約販売を中心とした農業事業者の場合、安定的に供給できる生産体制が必要でした。そのためには生産計画の制度を高める必要があり、そういった環境構築のためにはデータ管理が必要不可欠、という課題があったためDX化に取り組みました。
自社で蓄積した気象データと市況のデータを組み合わせることで、生産実績や販売実績の分析、今後の収穫量、相場などの予測を行っています。あらゆるデータをさまざまな角度で分析することで、作業を変更したり収穫に最適な日の予測などを行っています。
このようなデータ管理環境を構築することで、農業経営の「見える化」が実現できたため、社員の能力向上にも貢献しています。また、作業や業務の属人性もなくなることで一人一人の社員がさまざまな業務を担える環境も実現することができています。
本事例については課題というよりも、農業従事者の「やりたい」を実現するための取り組み事例です。もともと地元マルシェでの対面販売とオンラインマルシェでの販売を就農準備段階から検討しており、そのオンラインマルシェのプラットフォームとして「食べチョク」を利用しています。
「食べチョク」では有機栽培をはじめとしたこだわりの生産方法を重視しており、価格よりも質を重視した農産物を取り扱っている点に共感して導入されましたが、購入者と生産者が直接コミュニケーションを取れるコメント機能があるため販売してすぐに反応を見る事が可能になっています。
購入者からの反応はそれぞれの生産者に対するフィードバックとして取り扱われており、「食べチョク」全体で見ると3,000を超える全ての登録者に向けられた反応がビッグデータとして集積しています。これらを分析するとより効果的な販売方法が見えてくるというメリットもあります。